言葉が正しくとも、患者さんの思いに応えていかなければ、言葉の表情が温かくなければ、患者さんに言葉は届かないのではないでしょうか?
そんな時、患者さんはどう感じているのだろうと視点を移して見ると、今まで気づかなかったことが見えてくるかもしれません。
この二十年は東京SP研究会の模擬患者の方たちとともに多くの大学や病院でのコミュニケーション演習をお手伝いするようになり、そのことを通してあらためて私は患者=市民の目で医療コミュニケーションを見つめ直すようになりました。時を同じくして病院の臨床研修責任者になり、たくさんの研修医たちや病院見学の学生たちと出会うことになりましたが,文字通り「教えることは学ぶこと」ばかりでした。
ある病院の院長室に掲げられた額に、「言温而氣和」と書かれているのを見て、コミュニケーションはこの五文字に尽きるような気がしました。言葉がおだやかであれば、それだけで心気がやわらぐ。「言葉を贈る」ということは「心を贈る」ことなのです。医療のめざすもの=最終的な到達目標は、昔も今も「言温而氣和」のなかで生まれる患者さんの笑顔です。そのことを若い人たちに伝えることこそ医学教育の目標ではないでしょうか。 (あとがきより抜粋)
本書は、長年の経験の中で出会った患者さんとのエピソードや大学や病院でのコミュニケーション演習、臨床研修医との「教えることは学ぶこと」から気づかされたコミュニケーションについてまとめたものです。
【主な目次】
1 はじめに コミュニケーションは誰もがしているのに
2 よい医療者に会いたい
3 コミュニケーションは出会う前から
4 人は見かけが9割
5 立ち居振る舞い
6 敬語は温かい
7 聴くこと,訊くこと
8 聴き方の技法は身についている
9 話の聴き方
10 話を聴く姿勢
11 聴いてもらうことで
12 言葉を贈る
13 わかるということ
14 異文化コミュニケーション
15 聞こえた音が変換できない
16 言葉が多すぎると聞こえない
17 これだけはわかってほしい
18 目に見える説明を
19 処置と説明
20 検査・放射線は怖い
21 質問はありがたい
22 患者さんの言葉
23 言葉の奥の不安に応える
24 百聞は一見に如かず
25 わかりやすい説明の要素
26 医療者の言葉は聞こえない
27 患者さんは我慢しています
28 患者さんの世界は医療者にとって異文化
29 何気ない言葉が「上から目線」
30 言葉の表情
31 患者さんは孤独で,不安で,悔しい
32 患者さんは待っている
33 言葉が跳ね返されるとき
34 患者理解ができなくとも
35 医療者の言葉や態度で
36 苦手な人にはていねいに
37 雰囲気を和らげる言葉
38 相手が受け入れられるアドバイス
39 説明するではなく「話し合い」――インフォームド・コンセント
40 インフォームド・チョイス,セカンド・オピニオン
41 患者さん,その選択はだめですよ
42 在宅医療―在宅医療・終末期の医療
43 DNR―在宅医療・終末期の医療
44 思い出は生き続ける―在宅医療・終末期の医療
45 楽しい時を―在宅医療・終末期の医療
46 患者さんの物語―在宅医療・終末期の医療
47 嚥下障害について
48 チーム医療と「全人的医療」
49 家族はチームの主要メンバー
50 コミュニケーションというキャッチボール
51 患者さんを「クレーマー」にしないために
52 医療の場のコミュニケーション